日本社会関係学会発足にあたって
- 科学で現場と社会の理不尽に挑む - 稲葉陽二
日本社会関係学会が2020年9月17日創立総会を経て正式に発足いたしました。本学会は社会関係資本、市民社会、政策評価を3本の柱として活動することを目指しております。
複雑化する現代社会のなかで、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル、すなわち人々の
信頼関係や人的ネットワーク)が、政府、企業および市民社会の円滑な運営に不可欠の要素
となっています。社会関係という概念は現実世界でも、研究対象としても興味深いものです。
すぐれて学際的な概念であり、その研究には、経済学、経営学、政治学、社会学、心理学、
工学、社会疫学など、多くの学問分野の協働を必要とします。さらに政策の対象としても重
要な意義を持ちます。社会関係という抽象的な概念を、市民活動などの現場でのエビデンス
に基づき可視化し、実証可能にすることによってはじめて、政策対象としてオペレーショナ
ルなものとなり、科学的に評価することが可能となると考えています。
本学会はこのような趣旨にもとづき、社会関係資本、市民社会、政策評価について、実証
的な研究を発展させるため異なる分野の研究者の交流の場を提供し、さらには研究者、実践
家、政策担当者などの交流を促し、社会関係の現状やありうべき役割について研究するため
のプラットフォームを提供することを目的といたします。小生の個人的な視点からいえば、
科学で社会と現場の理不尽に挑む、ともいえるのではないかと思います。
木をみて森を見ない、といいますが、現実には枝葉をみて木さえ見ないこともままあるよ
うな気がいたします。逆に森をみて木を見ない、結果として現場を無視することも多々ある
ように思います。抽象的な表現になりますが、こうした対応が社会の理不尽を是認し、加速
しているようにも思えます。
もとより、「すべての20世紀科学の到達点として最も偉大なものは、人類の無知の発見
である。」(稲葉仮訳1)というルイス・トーマスの指摘は至言として謙虚にうけいれ、だか
らこそ、従来からあいまいで無視されていた領域を開拓して我々の無知を減らす必要があ
ると考えます。我々はわずか200名の小集団ですが、次世代のために何らかの貢献ができ
るようにとの志をもって発足いたしました。我々の趣旨にご賛同いただける方々の参加を
お待ちしております。
1 Hiss, Tony(2010 ) In Motion: The Experience of Travel , Borzoi Book, kindle edition.
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